大谷石の熱的特性と活用 / 横尾 昇剛(宇都宮大学地域デザイン科学部教授)

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1. 大谷石の概要

大谷石は、新生代第3紀中新世(2000万年前)に形成された緑色凝灰岩であり、火山灰や軽石を含んだ火山灰質のものが、海水中に堆積し凝固したものである。耐火性があり、軽くて軟らかで加工しやすく、建築屋土木材料として、機能性と意匠性により用いられている。大谷石は火山灰の堆積により出来た石であることから採掘場所や深さによって色合い、密度や硬度などが異なる。環境面の熱的特性についても、大谷石は特徴的であり、その特性を活用した利用方法が注目される。

2. 大谷石の熱特性

熱の伝わりやすさ熱伝導率について、大谷石の熱伝導率は1.336(W/m・K)であり、これは木材の杉の熱伝導率0.097(W/m・K)に比べると、熱が伝わりやすい材料とみなされる。コンクリートの熱伝導率1.637(W/m・K)に比べると、熱が伝わり難いということが言え、コンクリートに比べて多少の断熱性があると言える。

熱をどのくらい貯めることができるか熱容量(比熱)について見ると、大谷石の熱容量は1,670(kJ/m³・K)であり、杉材の熱容量は783(kJ/m³・K)、コンクリートの熱容量は2,013(kJ/m³・K)である。木材に比べると熱容量が大きく、コンクリートに比べると小さい熱的な特性としては、大谷石は、木材とコンクリートの中間的な材料として考えられる。また保水力は約33%程度であり、高い保水性を有している。大谷石の岩山に木々が生い茂る風景も、この高い保水力があることが要因の一つと考えられる。
表1 大谷石などの熱性能

日本建築学会編:建築設計資料集成1、建築設計資料集成2


写真1 大谷石の岩山(左)の表面温度と大谷石で囲まれた半屋外空間(右)の表面温度

3. 大谷石の表面温度の変化

地表面に、大谷石、アスファルトを同程度の厚さで敷き、表面温度の変化を測定した。
夏季の最高表面温度で比較すると、アスファルトは60℃、大谷石は45℃であり、15℃ほど温度が低減している。特に、雨が降った翌日の昼間の温度はさらに5℃程度低くなり、温度低減効果が大きい。夜間の表面温度は、熱容量の大きいアスファルトでは、30℃程度であるが、大谷石は、20℃程度で推移する。アスファルトは昼間の日射の熱を蓄えるとともに、周囲を高温化させている。さらに夜間は昼間に蓄えた熱を大気に放散し続けている。

大谷石は、昼間の日射を受けても、内部に保水された水分が蒸発することと、地中への熱伝導により温度上昇が緩和されていると考えられる。また夜間は、昼間の日射熱の蓄熱量が小さいことと、大気放射や地中への熱伝導により日没後すぐに表面温度は低下し、夜間にはほぼ外気温と同程度の温度となっている。

近年都市の気温が高くなるヒートアイランド現象の問題が発生している。都市表面を構成する材料をアスファルトやコンクリートから熱容量の小さく、雨水などを保水し蒸発散を促す材料に転換することで快適な都市環境を形成することにつながる。

4. 地下冷水のその他の活用

地下冷水のその他の農作物の活用としては、次のような事例がある。トマト栽培温室で、地下水・地中熱利用による各冷却装置を用いてミスト噴霧することによって、トマト収穫量が増加。冬季に地下水熱源ヒートポンプを利用することにより、慣行栽培と比較するとトマト加温、イチゴ加温ともにエネルギー消費量の削減が確認されている。

また、大谷エリアの環境資源活用した新しい農業ハウスとして、大谷石の木端を利用した半地下型の農業ハウスの構築も進められている。大谷石の木端積みや半地下型とすることで年間を通じて安定した温度調整が図りやすくなり、少ないエネルギーで農作物の栽培が可能となる。

各種活動の熱需要が高くなる場合は、大谷の地下貯留水の熱容量にも限りがあることから、持続的に地下冷水の活用するためには、地下貯留水の冷却メカニズムの把握と冷却メカニズムの維持する方策を同時に進めることが重要である。


写真2 アスファルト(左)と大谷石(右)の表面温度

4. 大谷石の熱的環境調整機能の活用

大谷石蔵は涼しいという意見を聞くことが多い。大谷石蔵や大谷石建築の居住者、使用者50件に夏季の温熱感について聞いたところ、約7割が涼しいと回答している。大谷石蔵を対象に室温のシミュレーションをしたところ、図1、図2のような結果であり、夏季でも涼しい快適な温度帯である結果となっている。冬季には室温がかなり低下するため、断熱化が必要となる。近年、大谷石蔵の店舗などのへの転用が行われているが、大谷石の特性を活かしながら断熱化や昼光、外気の取り入れ方法に工夫が求められる。しかし大谷石建築の良さである大谷石の壁面を断熱材で隠してしまう課題もある。

断熱部位としては窓・開口部の断熱、床の断熱、屋根の断熱、壁の断熱などがあるが、窓と床もしくは窓と屋根の断熱化でもある程度効果があり、大谷石建築の特徴である大谷石の壁面の内外への露出を残しながら、より快適な環境にすることも可能である。

また床上90cm程度の高さまで壁の内側を断熱し、上部は大谷石の露出を残す方法もある。

屋外空間での活用についても多様な可能性がある。夏季の高温化は熱中症などを引き起こし、環境問題とともに健康被害も引き起こしている。夏季の大谷エリアでは、バス停や街路空間では高温環境の中、多くの観光客が滞在している。大谷石の熱的特性、保水性を活用して、クールウォール、クールベンチ、クールフロアなどで構成された街角滞在スペース(図3)などをつくることで屋外空間の高温化の緩和をすることが期待できる。クールウォール、クールベンチ、クールフロアの試作と実験(写真4)を行なったところ、日射が強い午後は効果が小さいが、ほんのり冷えた空間を構築することの可能性が確認された。

大谷エリアは、大谷石が表出している場所もあれば、それほど大谷石が表出していない場所もあり、大谷石で構成されたクールスポットが街角に表出することで、大谷ならではの街路景観の効果に加えて、環境的な効果を付加することが期待できる。

謝辞:クールウォール、クールフロアの実験ではクラフトワーク(株)の協力を得ました。関係各位に感謝の意を表します。


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