そして大谷は―その(2)/ 塩田 潔(NPO法人大谷石研究会理事長)

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世界に通じるアイテムは「F.L.ライト」である。

今回創られるであろう「ビジターセンター」の一角を「情報館」として先ずは「F.L.ライト」を発信することである。それらがある程度年月を経て定着してきたら、改めて「F.L.ライト記念館」なる、ライトのデザインを再現した大谷石の彫刻をちりばめた建築物が出来れば理想である。これは、「大谷の石工」の教育、技術の向上、技術の伝承という意味合いを持つ。大谷にその技術を残さないと日本全国の石工の技術が消滅する恐れがある。これを実現するには、資金を含めて「ライト財団」や「帝国ホテル」との交渉等高いハードルがあるが、「世界の大谷」を目指すなら、これを乗り越えるに余りあると思える。これにホテルの機能を持たせることが出来れば尚更である。

又、大谷には、岩山を掘って「洞窟ホテル」が面白い。イタリア南部のマテーラ、トルコのカッパドキア等乾燥地帯と違って、湿気の多いこの地ではハードルが高いが、物理的な条件よりも、建築基準法や旅館業法の法的な壁の方が高いかもしれないが、決して不可能ではない筈である。

世界遺産の日光を控え、「星野リゾート」等個性的な高級ホテルがあり、「ザ・リッツ・カールトン日光」やしばらく休眠していた「プリンスホテル」がさらにレベルアップして新たにオープン予定のようである。それらに対抗するには、並みのホテルや多少の高級感を持たせても簡単に滞在してくれるとは思えない。

宿泊施設を創るなら「洞窟ホテルに泊まってみたい!」、「帝国ホテルに泊まってみたい!」というような、そのホテルに泊まることが目的となるようなインパクトのあるホテルでなければ通用しないであろう。中期的、長期的にそれくらいの覚悟が必要である。

それに、大谷に残る「歴史的建造物」をぜひとも保存活用して欲しい。

「大谷資料館」の他に、採掘場跡で小規模で安全が確認できる箇所が、あと2~3か所欲しい。「レストラン・カフェの機能を持つ空間」、「ギャラリー機能を持つ空間」、「コンサート機能を持つ空間」、それぞれが建築空間と捉えるならば建築基準法の大きな壁が立ちはだかる。これらを「屋外空間」として考えられないだろうか。前述の「洞窟ホテル」も同様である。かつて「特区」が、経済産業省の「なんでもあり」のキャッチフレーズで全国を賑わしたことがあった。大谷地区も採掘場跡の地下利用をしようとその気になって、経産省通いをした事があった。しかし、建築基準法の壁(岩盤)は崩せなかった経緯がある。ならば、建築基準法に架からない方法ならどうか。建築物でない、あくまでも「屋外空間」として、である。その場合でも採掘場跡の構造的な安全の担保、消防法的な安全の担保は欠かせない。又、どのように公衆衛生法、環境衛生法、旅館業法等をクリアするか、これもハードルが高い。大谷地区独自の「条例」を作成するのも一つの方法だろう。果たしてそれがどれだけ法律をカバーできるか未知数である。

「F.L.ライト記念館・旧帝国ホテル」に準ずるホテル構想や「洞窟ホテル」構想も現在のところ、私の単なる妄想に過ぎないかもしれない。しかし、大谷地区が本当に「世界の大谷」を目指すならば、この妄想に挑戦する価値があるのではないだろうか。

歴史的建造物を面的に保存した「伝統的建造物群保存地区」は、今や全国的に存在し、素晴らしく整備された伝統的な街並みが揃い、元気な中高年のボランティアのおばさん、おじさん達が案内してくれる。世界遺産に登録され、地域ぐるみで観光の旗振りや有名人の観光大使を任命してPRし、当初は何十万人、何百万人と人が押し寄せ、鼻高々の関係者が数年経って、観光客が激減すると、どうして減ってしまったのか、どのようにかつての客を呼び戻すかの対策を練るという全国同じパターンを繰り返している。

話は単純である。「伝統的建造物群保存地区」といってもほぼ全国同じような整備スタイルだからである。観光の目玉になっているのが、一度来れば(見れば)また来たいと思えるかどうかである。そうでないものをどう構築するか、どう磨き上げるか。

全国的にみてここだけのものは何か、ここだけでしか体験・体感できないものは何か、他の地域の物まねはないか,ここだけの本当の魅力はなにか、ここにきて1日居たくなるものは何か、泊まりたくなるには何が必要か。「大谷」は全国的にみて、ここだけの魅力が満載の地域である。


本気になって考えてみよう!


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