宇都宮を中心に栃木県内には、旧街道沿いに大谷石の石塀、石蔵等が集積して独特の景観を呈している集落が数多く存在する。2012(平成24)年、当研究会が宇都宮市から「景観整備機構」第1号の認定を受けたのを機に「街道集落」の調査を宇都宮大学工学部(現・地域デザイン科学部建築都市デザイン学科)の安森研究室(安森亮雄准教授)と協働で調査を行うことにした。これは街道沿いに集積している石蔵集落が年々歯が欠けたように減少していくのを危惧し、今のうちに調査し、保存伝承して行くこと、これらが宇都宮のブランドであることを所有者の方々を含め、広く市民に、行政に訴えたかったからである。
1. 徳次郎町西根地区
2012(平成24)年に調査した西根集落は、旧日光街道沿いの20数戸の集落であり、そのうち62棟もの石造建造物が存在する。国道293号線を挟んで、男抱山付近で「徳次郎石」が産出され、張り石蔵や石屋根、住まいの壁に利用されていた。
この集落は、明治初期まで火災が多く、防火対策として道路側に石塀や石蔵を多く配している。これは防火のみでなく、ステータスな意味もあったと思われる。この地区は優れた石工を多く輩出しており、蔵の入り口や窓回りの精巧な彫刻には、競って鑿を振るった「西根石工」の心意気が伝わってくる。
2. 上田原町地区
2013(平成25)年に調査した田原街道沿いの上田原町集落(旧河内町)は、鬼怒川水系の山田川流域に位置する米どころである。調査した24世帯のうち45棟の石造建造物があり、徳次郎石の張り石蔵や石屋根も散見されるが、曲がりくねった交通量の多い、やや狭い道路側には塀と一体になった石蔵が多く見受けられる。これも防火対策とステータスの意味合いが濃い配列である。今バイパスが出来つつあり、完全に開通すれば生活道路が復活し、集落の人たちに安全な歩行が確保されるだろう。
3. 上田町集落
2014(平成26)年に調査した上田町集落(旧上河内町)は、全長600~700mにも及ぶ道路両側に水路が流れ、玉石積みの石垣の上に大谷石塀が延々と続く景観は見事である。季節によっては、サルビア等のプランターを配し、道行く人の目を楽しませてくれる。
鬼怒川水系の西鬼怒川・御用川流域の米どころであり、後継者にも恵まれ、コミュニティ意識の高い集落である。40世帯余りの中、各戸2棟以上の石蔵を所有しているところが多く、石塀の高さが見事にそろった景観は農村ならではの共同体意識のさせる業であろう。
4. 芦沼町地区
2015(平成27)年に調査した芦沼町集落(旧上河内町)は、鬼怒川水系の河岸段丘の内側にあり、「男体おろし」から身を守るべく、この日当たりのよい肥沃な土地に集落ができたのは自然の理であろう。かつては泉が湧き出ていたそうである。全体に16世帯のうち、8世帯の石蔵等が集積し、近隣の上田町集落とは全く違った異国情緒の景観が形成されている。
上田町地区、芦沼町地区が共に平成27年の「第17回市まちなみ景観賞」の大賞に輝いたことは、調査した私たちにとって大変喜ばしいことである。「市内でも有数の密度の高い大谷石集落による景観」であると評価された。集落の人たちにとって「プライド」であり、宇都宮市民にとって「ブランド」であろう。その他市内、県内に数多くの大谷石独特の風景が存在する。
又、土木遺産とも言うべきものが数多く残されている。東部宇都宮駅のプラットホーム東側の擁壁は長さ100mを超え、高さも6m前後あり、建物でほとんど隠れているが、もし全貌が見渡せたら秀逸である。星が丘の坂道の石畳と両側の石塀の織りなす景観は市内でもここしかない景観であり、今風化や損傷が激しく、地元住民の保存を願う声が行政に届き、修景されることのなったことは大変喜ばしいことである。
その他、河川の擁壁や橋として、かつて農業や生活を支えてきたものが田園風景の中にひっそりと存在する貴重な遺構と出くわすことがある。