「大谷石文化学」連載による情報発信

各分野の専門家がナビゲーター役となり、大谷石文化を語る上で欠かせない話題や背景を取り上げた連載をご紹介します。

地質

大谷石そのものの話

講師:酒井 豊三郎(宇都宮大学名誉教授理学博士)

大谷石文化の下地である大谷石そのものについて、石材・景観の構成材料としての観点を主軸に、石としての性質・特徴などを解説する。

1.大谷石の姿と広がり
大谷石とは何か。どこに、どのように存在するのか。場所によって随分と異なった石に見えるがそれは何故か。などについて解説する。
2.大谷石はこうやってできた
火砕流堆積物として大谷石が出来上がり、現在私たちが見ている状態になるまでの過程について解説する。
3.大谷石の中のミソ
大谷石の魅力の一つはミソの入り方の多様性だと思っているが、そもそもミソとは何ものなのか。様々な見解について検証・解説する。
4.大谷石の仲間たち
大谷石に類似した岩石は世界中に分布する。県内に分布するものを中心に大谷石との違いに重点を置いて解説する。
5.大谷石の山間を流れる姿川
姿川は大谷石の山間を通り抜けるように流れていますがどうしてこのよう流れができたのですか?なぜこんなに垂直の崖ができるのですか? 「大谷石」の崖の下部は大きく削り込まれていることが多いですが何故ですか? これらの疑問にお答えします。
6.採掘地は山腹から水田の下へ
大谷石を採り始めたのは山腹ですが、採掘地は地下へ、そして水田へと広がりました。その必然性を解説する。なお、大谷石採掘跡地の管理の現状と課題について触れる予定。

歴史

大谷石文化の黎明 ―古代・中世の大谷―

講師:橋本 澄朗(宇都宮市文化財保護審議委員会委員長)

大谷石採掘と利用が本格化する江戸時代以前、人々は大谷石とどのように関わったのか。大谷石文化の黎明期の一端を概観する。

1.大谷寺岩陰遺跡 -大谷の地に足跡を残した人々-
大谷磨崖仏の造像された岩陰(洞窟)には、縄文時代草創期以来断続的ながら人々の営みが確認されていたことを発掘調査の成果から説明する。
2.大谷石で造った黄泉の世界 -姿川流域の横穴式石室-
古墳時代後期(6世紀)になると、姿川上流地域には、大谷石を構築材とした横穴式石室の古墳が築造されていることを具体的事例を紹介しながら説明する。
3.仏教文化の波及と大谷 -里山の異界を求めて-
大谷地域を含めた宇都宮北部には、水道山瓦窯跡、大谷磨崖仏、多気不動尊等仏教文化の波及を示す記念物が多数所在することをこの地の自然景観と関連させて説明する。
4.大谷磨崖仏 -古代から継続する民衆の祈り-
東国でも稀有の存在である大谷磨崖仏についての概要、具体的な造像背景、造像方法、造像順序を説明する。
5.大谷千手観音立像 -千手観音像造像の歴史的背景-
大谷磨崖仏の中でも最も注目される千手観音立像造像の背景を9世紀前後の東国社会の動向と関連させて説明する。
6.大型五輪塔 -五輪塔に託した祈り-
中世には多くの石塔が造られ、その一つに五輪塔があるが、ここでは大谷石製の大型五輪塔に注目して説明する。

民俗

大谷石と大谷をめぐる民俗

講師:柏村 祐司(下野民俗研究会顧問、栃木県民話の会連絡協議会顧問)

人々の記憶や使用してきた道具等から、大谷石採掘ならびに大谷に関わる人々の暮らしについて紹介する。

1.石切り仲間 -問屋・番頭・職人-
主として手掘り時代の大谷石採掘者の組織について紹介する。
2.石山の守り神 -山の神信仰-
山の神の祭りなど山の神信仰の実際について紹介する。
3.石切り方法と道具 -手掘りから機械堀へ-
手堀りによる採掘の方法と道具、および機械の導入の経緯について紹介する。
4.お宝を火災から守る -石蔵の出現-
蔵は板蔵から石蔵へと変わったが、石蔵が最初、貼石工法によって建てられたことを運搬の関わりから紹介する。
5.石屋根に魅せられた民藝運動家 柳宗悦
柳宗悦は、石屋根に魅せられ石屋根の長屋門を購入し住居とした。柳宗悦がなぜ石屋根に魅せられたのかを紹介する。
6.大谷にまつわる民話
大谷寺の由来他、大谷にまつわる民話を紹介する。

景観

大谷石の風景・大谷石文化―未来へ

講師:塩田 潔(NPO 法人 大谷石研究会理事長)

地域の建築家として自分が見てきたもの、調査してきたもの、感じてきたもの、創ってきたもの、そして今後の可能性、大谷の町の可能性等について紹介する。

1.大谷石との出会い・大谷石の風が吹いてくる
宇都宮市民・栃木県民にとって、幼少時に大谷石の石塀や石蔵との出会いがある。そのヴァナキュラーな素材との出会いは、私たちにとって大変幸運な事。
2.旧帝国ホテル・ライト館に使われ、一気に付加価値が高まる
旧帝国ホテル・ライト館との出会いは、大学3年の時であった。私にとっては意外な印象であった。
3.宇都宮独特の景観形成
私たちにとって当たり前の風景、大谷石の石塀や石蔵のある風景が今も旧街道沿いに残る。擁壁、アーチ型の橋や石畳が景観に彩りを添える。
4.諸々の日本の近代化産業を支えてきた大谷石
地元では、味噌、醤油、酒の醸造蔵として、周辺地区では真岡木綿や足袋の製造、両毛地区の絹織物の工場や礎石として産業を支えてきた。
5.新しい大谷石の使い方、その可能性
建築基準法による制約、宅地造成の素材としての終焉を超え、新たな内外装材として付加価値を見出し、全国に又は世界に市場を広げる。
6.そして大谷は―
大谷は、大谷石産業としての盛衰に左右されてきた歴史がある。近年は特に観光としての魅力度が増し、従来の産業に新たな産業が加わり、観光とのコラボに新たな活路を見出しつつある。

建築・都市

大谷石の建築文化(仮)

講師:講師:安森 亮雄(宇都宮大学地域デザイン科学部准教授)

1.石蔵のタイポロジーと町並み —農村集落について—
西根、上田、芦沼。
2.石蔵のタイポロジーと町並み —中心市街地について—
旧日光街道(小幡・清住地区)など
3.ヴァナキュラー(地域性)とアノニマス(匿名性)
河井寛次郎(民藝運動における大谷写真集)、ウィリアム・モリス(アーツアンドクラフツ運動と石の納屋)
4.大谷石の産業建築
青源味噌、菊酒造、桐生のノコギリ屋根工場(織物)、清原地区のベーハ小屋(煙草)
5.大谷石の学びの空間
宇都宮大学 フランス式庭園/旧図書館書庫 etc.
6.大谷石の近代建築 —戦後のモダニズム受容における大谷石—
坂倉準三(神奈川県立近代美術館)、前川国男(国際文化会館、旧紀伊国屋書店)、谷口吉郎(吉川英治記念館)etc.
7.大谷石の現代建築
隈研吾(ちょっ蔵広場)、渡辺明(二期倶楽部)、近年の住宅 etc.
8.石のまち —採石産業とまちづくり—
伊豆石(静岡県)、房州石(千葉県)、札幌軟石(北海道)、高畠石(山形県)、秋保石(宮城県)、国見石(福島県)、コッツウォルズ(イギリス)、北イタリアの山村 etc.

美術・デザイン

フランク・ロイド・ライトが拓いた大谷石文化

講師:橋本 優子(宇都宮美術館主任学芸員)

アメリカ人建築家フランク・ロイド・ライト(1867~1959 年)を出発点に、地域の名建築、石と人の活動を支えた鉄路、戦後の状況、そしてライトがもたらした糧を「未来の遺産」「地域の誇り」として継承することを解き明かす。

1.ライトによって拓かれた大谷石文化の近代(1)
ライトの来日と石選び、日本政府の全国石材調査、ライト《旧・帝国ホテル ライト館》、そのために拓かれたホテル山(旧・東野採掘場)の紹介。
2.ライトによって拓かれた大谷石文化の近代(2)
ライトが大谷石に見出したこと、ライトと遠藤 新(弟子)による他の大谷石建造物、関東大震災後の帝都復興と大谷石の役割について解説。
3.地域が誇る昭和戦前の大谷石名建築(1)
安 美賀《旧・宇都宮商工会議所》、更田時蔵《旧・大谷公会堂》、安と更田がライト館に学んだこと、モダン宇都宮の都市景観を紹介。
4.地域が誇る昭和戦前の大谷石名建築(2)
マックス・ヒンデル《カトリック松が峰教会聖堂》、上林敬吉《日本聖公会 宇都宮聖ヨハネ教会礼拝堂》、大谷石を使った他の教会建築について解説。
5.石と鉄路・その歩みと大谷石建造物を探る(1)
明治・大正年間の地域における鉄・軌道ネットワークと路線図、煉瓦と石の攻防、鉄路のための大谷石構造物、鉄・軌道ネットワークを通じた石材の流通を紹介。
6.石と鉄路・その歩みと大谷石建造物を探る(2)
昭和戦前の地域における鉄・軌道ネットワークと路線図、東武鉄道《南宇都宮駅駅舎》《東武宇都宮線築堤》《東武宇都宮駅旧駅舎(初代駅舎)》《ときわ台駅駅舎》、《旧・宇都宮常設球場》について解説。
7.高度成長時代の大谷石建造物
《南宇都宮倉庫群》、食糧・物流倉庫に見る新しい建築スタイル、旧・日本国有鉄道《宇都宮駅旧駅舎(四代目駅舎)》《同・駅前広場》、《旧・栃木県総合運動場陸上競技場》、転換期となった高度経済成長の時代を紹介。
8.日本遺産と大谷石文化
日本遺産とは何か、「地下迷宮の秘密を探る旅」のストーリーについて、「ストーリー」への着目、「構成文化財群」の整備・活用・発信という考え方、大谷石文化を通じて求められる地域の命題・使命を解説。

産業・環境

大谷の環境資源と大谷石の特性を活かした地域の再創生

講師:横尾 昇剛(宇都宮大学地域デザイン科学部教授)

1.大谷エリアの環境資源 地上編
大谷エリアにある特徴的な景観、加工場跡や大谷石使用の建物など構造物の立地状況、大谷エリアに関する住民や観光客の意識構造について解説する。
2.大谷エリアの環境資源 地下編
地下空間の温度分布、冷水の温度分布、冷水貯留量、冷熱エネルギーとしての位置付けについて解説。
3.大谷石の熱的特性と活用
大谷石の熱伝導、蓄熱性、保水性など、熱的特性を活かした活用事例を紹介。
4.大谷の環境資源で夏いちご
地下冷水を利用した夏いちご栽培の仕組みと可能性について解説。
5.大谷の環境資源で熟成
地下冷水を利用した食品の熟成空間の可能性について解説。
6.大谷の環境資源で冷やす
地下冷水と大谷石の熱的特性を利用したクールスポットの可能性について解説。大谷石を使ったまちかどクールウォール、クールベンチなど。
7.大谷の環境資源でワークスペース
地下冷水、冷気を利用したワークスペースの可能性について解説。夏季の避暑空間としてテレワーク利用など。
8.大谷の環境資源で楽しむ
地下空間、空洞空間を活用したアクティビティの可能性について。まちの再創生として大谷の環境資源、産業遺構、大谷石の特性を活用した遊びの空間、学びの空間を創り出す。

自然環境

大谷の自然と人々の暮らし

講師:髙橋 俊守(宇都宮大学地域デザイン科学部教授)

人々は、大谷の自然特性をどのようにとらえ、地域資源として利用してきたのだろうか。大谷石文化の基底となる生態系サービスを俯瞰し、大谷の自然と人々の暮らしの関係を明らかにしたい。

1.大谷の地形と景観
山、川、岩が織りなす変化に富んだランドスケープについて
2.大谷の自然と動植物
大谷地区の里山と自然、生物相の特徴について
3.大谷における自然の恵み
大谷石を中心とした生態系サービスと人々の暮らしについて
4.姿川流域の大谷石文化
姿川の流れと沿川の歴史文化遺産(大谷石文化)について
5.大谷石廟墓の広がり
宇都宮市一帯に見られる近世の大谷石廟墓をめぐる考察
6.大谷の地名と地域特性
大谷地区に埋もれた地名と地域のランドスケープ特性にについて